「博物館論」:地底の森ミュージアムと人類
2024/12/22
2024年12月18日(水)の「博物館論」(本学准教授・正田倫顕担当)に、地底の森ミュージアムの館長・平塚幸人様をお招きしました。本学の学生たちには是非一度は訪れてほしい場所ですので、館長に博物館の特徴と魅力についてお話し頂きました。
講義の様子
「世界中でここだけ!!」。皆さんは地底の森ミュージアム(仙台市太白区)に行ったことはありますか。この博物館は約二万年前の樹木と人類の痕跡を保存展示しており、世界でも類を見ない貴重な場所です。1987年に小学校建設のために事前調査が行われ、地表から5m下に氷河期の森林が埋もれていることが分かりました。さらに驚くべきことに、旧石器時代の人類がたき火をした跡や石器を作った痕跡が残っていたのです。遺跡を発掘されたままの状態で保存・公開するために、1996年に地底の森ミュージアムは開館しました。
地底の森ミュージアム(撮影・正田倫顕)
地底の森ミュージアムに入ると、まずはムッとしていると感じるのではないでしょうか。メガネをしている人はレンズが曇ってしまうでしょう。これは二万年前の樹木を保存するためには乾燥が大敵だからです。途方もなく昔の木々は放っておけば、朽ち果ててぼろぼろになっていきます。保存のためには特殊な薬品を塗布して、高い湿度を保たなければなりません。同時に防カビ対策も必要です。平塚館長には教室に実物の木の資料をおもち頂き、学生たちにその手触りや質感を体験してもらいました。
木に触れてみる
地下展示室の楕円形の空間はまさに圧巻です。二万年前に人類が歩いていた地面が皆さんの目の前に広がっています。ここで氷河期の人類が狩りをして、獲物の肉を削ぎ落とし、たき火であぶって食べていたのです。彼らが使ったナイフ状の石器も発見されています。
平塚館長には教室で石器の作り方も実演して頂きました。石を叩いて石器を作るには手先の器用さやコツが必要で、旧石器時代の人類は思いのほか高度な技術を獲得していたのです。石器がカッターナイフのような切れ味で、紙をすぱっと切り裂く様子もお示し頂きました。
地底の森ミュージアム(撮影・正田倫顕)
ゴーギャン(P. Gauguin, 1848-1903)の絵に《われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか》がありますが、まさにここは私たちの来し方と現在、行く末を考えさせてくれるミュージアムです。野外展示「氷河期の森」では約二万年前にこの場所に広がっていた森が復元されています。
来館者は「何度来ても、変わり映えのしない」展示だと思うかもしれません。しかしそれは変わらない努力を必死でしているからだということでした。学芸員の重要な仕事の一つは、展示物を前と同じ状態で半永久的に維持することです。だからこそ「変わらない」、「変わり映えがしない」という言葉はプラスの評価であり、褒め言葉でもあるということでした。
皆さんも勉学や仕事といった日常生活から一歩退いて、悠久の歴史の中で今生きているとはどういうことか。なぜほかならぬこの私が生きていて、なぜ死ななければならないのか。こうした人類にとって普遍的な問いを大学生のうちに、考えてみてはいかがでしょうか。
平塚幸人様、ありがとうございました。