「博物館論」:福島県立美術館と大ゴッホ展
2024/12/15
2025年から2028年にかけて、「大ゴッホ展」が日本で開催されます。オランダのクレラー=ミュラー美術館から、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh, 1853-90)の作品が到来する大規模展覧会です。《夜のカフェテラス》や《アルルの跳ね橋》といった誰もが知る傑作が展示される予定で、大きな注目を集めています。会場となるのは神戸、福島、東京の美術館・博物館です。
《夜のカフェテラス》と《アルルの跳ね橋》
2024年12月11日(水)の「博物館論」(本学准教授・正田倫顕担当)では、「大ゴッホ展」の会場の一つである福島県立美術館の学芸員の方にお越し頂きました。本学の学生たちも「大ゴッホ展」に大きな関心をもっていますので、その開催地の美術館についてお話し頂きました。
福島県立美術館は1984年に開館し、隣接する図書館と一体になった複合文化施設です。エントランスホールはまるで教会建築のようで、広い展示室や切妻屋根などが特徴的な建物です。展示室の壁は多くの美術館が採用している白色ではなく、木目調や大理石模様のデザインです。外観、内観ともに意匠を凝らした建築は見映えがよく、人を惹きつけます。しかし学芸員として実際に中で働いてみると、さまざまな問題点もあるそうです。とりわけ収蔵スペースの不足が喫緊の課題になっているとのことでした。
福島県立美術館(撮影・正田倫顕)
博物館の存在意義とは何なのでしょうか。様々な意味づけが考えられますが、自分の住んでいる地域の文化や歴史を知ることで、自信をもって生きることにつながる。美術作品は生きる上での支えになるとの思いで、地元の知られざる芸術家なども紹介されているそうです。モネ(C. O. Monet, 1840-1926)やピサロ(C. J. Pissarro, 1830-1903)の西洋絵画のほか、速水御舟(1894-1935)や関根正二(1899-1919)、斎藤清(1907-97)などのコレクションについてもご解説頂きました。
近年、美術館の貸会場化が大きな問題となっていますが、福島県立美術館もその例外ではないようでした。「フェルメールとレンブラント展」や「伊藤若冲展」などは十万人を超える集客を誇ったものの、福島県の文化を顕彰する「地味な」展覧会は入館者が少ないということでした。学芸員の立場からは自ら企画立案した展覧会こそ多くの人に見てもらいたいにも拘らず、マスコミ主導の大規模展覧会が注目されるジレンマをお話し下さいました。
尚絅学院大学5G教室
とはいえ「大ゴッホ展」などの展覧会は、普段芸術に馴染みのない人たちが美術館に足を運ぶ貴重な機会です。遠い異国にある美術作品を見て、新たな出会いと感動が生まれることは確かです。福島県立美術館でも「誰にでも開かれた、豊かな時間を過ごせる場」になることを目指して、日々業務に取り組まれているそうです。皆様もこの機会に是非「大ゴッホ展」で、オランダの画家の芸術世界に触れてみてはいかがでしょうか。
皆様、「大ゴッホ展」をお楽しみに!
「大ゴッホ展」Ⅰ
2025年9月20日-2026年2月1日 神戸市立博物館
2026年2月21日-5月10日 福島県立美術館
2026年5月29日-8月12日 上野の森美術館
「大ゴッホ展」Ⅱ
2027年2月-5月頃 神戸市立博物館
2027年6月-9月 福島県立美術館
2027年10月-2028年1月 上野の森美術館