尚絅学院大学

人文社会学類 お知らせ

SDGsコラム 目標13 気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる

2022/11/21

気候変動に具体的な対策を(長谷川 公一)

「気候危機」という転換点

 長期化するコロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻という衝撃的な出来事が続いています。私たちが大きな分岐点・転換点に立っているのは確実ですが、問題は、人類がどこに向かっているのか、現代がどういう分岐点・転換点なのか、ということです。
 現在、世界全体が直面している最大の危機の一つが「気候危機」です。長い間「地球温暖化」という言葉が使われてきましたが、影響は温暖化にとどまりません。干ばつや豪雨、竜巻など、異常気象の頻発・日常化が顕著です。すでに気候の危機が顕在化し、対策が急務であることを強調するために、2019年頃から海外では「気候危機」という言葉がよく使われるようになってきました。
 

気候危機の影響

写真1:サクランボの花(山形県東根市)

写真1:サクランボの花(山形県東根市)

 気候危機はこれから100年も続く、長期的な危機でもあります。気候危機対策がうまく行かなかった場合には、2100年までに産業革命前と比較して、平均気温が4.8度上昇すると予測されています。その場合には日本でも、最高気温が35度以上の猛暑日が年間で60日以上にも達し、年間1万5千人を超える熱中症による死者、豪雨の激化、台風の巨大化などが予想されています。
 全国でも宮城県内でも、毎年のように、豪雨の被害が報じられています。
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/2100weather/(”2100+天気予報“で検索してください)

 桜が3月30日頃に全国でほぼ一斉に開花するようになり、「桜前線」という言葉が死語になり、九州南部では冬の寒さが不足するために桜が開花しなかったり、満開にならないことも想定されています。
 大豆が世界的に品薄になり高級食材になるとも予測されています。2050年代以降は節分に「豆撒き」ができなくなるだろうと見られています。稲作の中心は北海道に移行しますが、北海道でも高温障害によって米の品質が悪化し、米は輸入食品になる危険性も指摘されています。
 海水温の上昇による鮭の不漁も、毎年のように報じられています。宮城県の秋の郷土料理、ハラコ飯も、やがては食べられなくなる危険性もあります。
 私は「果樹王国」山形県の出身ですが、2060年代には山形県の庄内地方や北陸地方の沿岸部も温州ミカンの栽培適地になると予測されています。山形県では2010年からかんきつ類の試験栽培を始めています。
 現在は山形特産ですが、サクランボの栽培適地も北海道に移行する可能性があります。
 ミカンやリンゴが色づきにくくなる、新たな病害虫の発生などの気候危機の影響は既に顕在化しつつあります。

 

1.5度未満に抑えられるか——日本政府の消極姿勢

写真2:日印シンポジウムの様子(2022年3月17日)

写真2:日印シンポジウムの様子(2022年3月17日)

 地球全体の平均気温を産業革命前と比較して、1.5度未満に抑えられるかどうかがカギになると科学的に警告されています。既に1.1度上昇していますので、あと0.4度の上昇にとどめなければなりません。そのためにも、早期の効果的な気候危機対策と、2050年以降、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロに抑えられるかが世界的な課題になっています。
 2020年10月に菅首相(当時)は、日本も、2050年に、温室効果ガスの排出量と吸収量をゼロにすることを宣言しましたが、肝心の気候危機対策は、ドイツをはじめEU諸国は積極的ですが、日本政府は消極的です。温室効果ガスの8割以上は発電所などのエネルギー由来です。気候危機はエネルギー政策と表裏一体です。
 日本政府の対応は、技術革新への期待が中心で、政策的に誘導しようとする姿勢に乏しいものです。経団連の「自主行動計画」のような各業界の自主的な取り組みに委ねて積極的に規制しようとする姿勢が弱いのです。気候危機対策もエネルギー政策も大胆な政策転換が不得手です。気候危機対策は「票にならない」こともあって政治家の関心も低いのです。環境問題に関しては、農林族や文教族のような「族議員」も不在です。
 もっとも効果的な政策は、炭素税のように炭素に価格を付けることですが、懸案となりながらも本格的な炭素税の導入は遅々として進みません。

未来は持続可能か

 フランスの国旗三色旗は、青が自由を、白が平等を、赤が博愛を表しています。自由・平等・博愛はフランス革命以来の近代社会の理念を示していますが、現在中心、現世代中心の価値観です。一方、持続可能性は、未来に生き残れるのかを問いかける新しい理念です。
 みなさん、それぞれ、未来に思いをはせてみましょう。
 2000年生まれの学生、今年の4年生の多くは、2030年に30歳、50年に50歳、70年に70歳、2100年に100歳を迎えます。今日という現在は、2100年の明日へ続いています。

私たちができること

 政府や大企業の責任が大きいですが、私たち市民ひとりひとりが出来ることも、政府や企業・金融機関に対する抗議行動や学習会をはじめとして、たくさんあります。
 例えば地産地消です。筍や空豆をはじめ地元産の旬のものを食べることは、輸送などにかかわるエネルギーを節約することにもなり、地域の農業を励ますことにもなり、将来世代のためでもあります。一石三鳥・四鳥の効果があります。
 安物買いをせずにいいものを長く使おうとすることも、ごみを減らすことにつながり、気候危機対策になります。
 全身をアンテナにして、五感を研ぎすまし、季節の移ろいに敏感になって、つつましやかでたしなみのある生活を心がけることは、ささやかでも気候危機対策としても意味のあるライフスタイルです。

参考:長谷川公一・品田知美編『気候変動政策の社会学——日本社会は変われるのか』昭和堂、2016年。
   長谷川公一「気候危機と日本社会の消極性――構造的諸要因を探る」『環境社会学研究』26号、80-94頁、2021年。
   長谷川公一「気候危機をめぐる参加と連帯—— Fridays for Futureの社会運動論的分析」『ノンプロフィット・レビュー』20巻2号、69-78頁、2021年。