尚絅学院大学

人文社会学類 お知らせ

SDGsコラム 目標12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する

2022/11/07

発生を削減(Reduce)、再生利用(Recycle)及び再利用(Reuse)により、廃棄物の発生を大幅に削減する(玉田真紀)

日本の伝統的な生活では廃棄意識はなかった

写真1 畳縁活用の作品展示(フォーラス)

写真1 畳縁活用の作品展示(フォーラス)

 私の研究テーマ「古着・古布の再利用の文化」から、はじめに、江戸時代の循環型社会についてお話します。
 暮らしに使う衣服や布は、周囲の植物や樹木から採取した草皮繊維(大麻、苧麻など)や綿花、樹皮繊維(科、藤、葛など)や養蚕による繭から作られ、国内生産されて来ました。生産の場が近くに存在し、生活者は生産者でもありました。素材を得るには、それが育つ環境を守り育てることが不可欠でした。また、繊維から糸、織物にするまでの段階は、多大な手間と時間がかかります。それを知る人は、布は貴重で無駄にしないことが当然でした。庶民が新しい布を入手できるのは、新年や節目の行事などの特別な時に限られていました。古着や端裂を上手に利用する技術が必要で、家族で継承され、どんなボロでも廃棄する意識はなかったのです。細く切って織物の緯(よこ)糸にして使う裂織(さきおり)、小さな布を接いで縫い留める刺子(さしこ)など、作業着や生活用品を作るために、また、弱い古布も丈夫に長持ちさせるために、各地域で様々な技法が生まれました。刺し文様には、豊作や福寿、家柄や職業を表現する形が見られ、縫うことは単なる労働作業ではなく、着る人への願いや祈りが込められました。
 昭和30年代頃までの民芸には、確実にこの痕跡を見ることができます。

江戸時代の全国に広がる古着商人と流通

写真2 畳縁で手芸ワークショップ(SDGsマルシェ)

写真2 畳縁で手芸ワークショップ(SDGsマルシェ)

 さらに驚くのは、日本全国に古着商人がおり、海運と陸路によって古着商品を供給する社会的基盤があったという史実です。古着問屋旧記によれば、1622年には古着を関西から買付して、東北地方に売りに来る古着商人が存在しています。18世紀には、大阪・京都から日本海周りの北前船や、江戸を経由して東北地方へ運ぶ廻船経路ができていました。当時、古着商売人は約4千人おり、古着は人気商品で需要が高く、品薄だったと記されています。明治初期の日本全国の港に入る古着類の記録によれば、古解分(ほどいた形)、熨斗継(継ぎ当の小布)、織草(裂織用のボロ)などの商品名が見られます。各地の需要に合わせた多様な形で流通したことがわかります。
 現在でも廃棄物処理法で、衣類は専ら物(もっぱら再生利用の目的となる産業廃棄物または一般廃棄物)という特別な扱いがなされています。これは日本の歴史の中で、古着は再利用の価値があるものとされて来た経緯からです。

参考文献:玉田真紀「衣生活を支えた故繊維資源の国内循環―近世・近代初期の古着問屋・商人と流通史料からの考察」服飾文化学会誌Vol.9、No.1(2009)

現代のアパレル大量生産が抱える課題

写真3 服の交換会 X’change(SDGsマルシェ)

写真3 服の交換会 X’change(SDGsマルシェ)

 江戸時代までの国内木綿は、明治時代に国営工場の綿紡績機の導入で機械向きの輸入綿に変わり、日本の綿花栽培は衰退しました。最盛期は世界一位、農業の半数を占めた養蚕業も、昭和60年代以降は衰退し、今はほとんどやられていません。
 既製服産業が扱う素材は、石油を材料とした化学繊維が多く使われています。天然素材でも化学的な加工がなされ、縫製糸や部材も、かつての手工芸時代とは全く異なっています。大量の原材料はほぼ輸入品で、布製造は工業生産のため、生活周辺で、生産現場を見る機会は激減しました。
 また、21世紀の経済低迷の中、既製服は安いファストファッションが主流となり、国内のアパレル縫製工場では価格が合わず、生産がアジア圏に次々と移りました。江戸時代は全てが日本で作れた衣服が、海外拠点が無くてはサプライチェーンが成り立たない実状となりました。
 もはや消費者には衣服にどんな材料が使われているのか。どこで、どう作られているのかが見えないのが現実です。常に大量に豊富な商品があることに慣れてしまった私達ですが、安く作る過程で理不尽な材料が使われたり、過剰に作りすぎた商品が廃棄されたりと、多くの課題があることに気づく必要があります。物作りに関心を持ち、信頼できる製品を適性価格で購入し、愛着を持って長く着用する行動が、良い生産者を支援することになります。ここ数年で、資源循環する素材開発、修理や長期使用を考えた物作り、廃棄を減らす回収と再利用など、循環ビジネスに取り組む企業が増えつつあります。

「やれることから始めよう」学生との取り組み

写真4 ダーニングのイベント(尚絅学院大学サテライト)

写真4 ダーニングのイベント(尚絅学院大学サテライト)

 玉田ゼミでは、大量生産の繊維・アパレル産業の仕組みを学び意見交換しながら、廃棄を減らす活動に取り組んで来ました。いくつか写真で紹介します。
 写真1・2は「畳縁廃棄布を活用した照明と手芸品の展示」簡単な髪飾りを作るワークショップも実施。大学主催のSDGsマルシェ2022、仙台フォーラスのアップサイクルイベント2022のイーブン会場で開催。写真3は「服の交換会 X’change」家に眠っている衣服を持ち寄り、思い出やお勧めコーデなどタグにメッセージを書き、譲るという活動。大学主催のSDGsマルシェ2021で出店。写真4は「ダーニング・アートの展示とワークショップ」ダーニングとは繕いのこと。穴やシミ部分を創作的な繕いで魅力的にする方法。大学の名取エアリ・サテライトで2020開催。