尚絅学院大学

人文社会学類 お知らせ

【それって、どんな学問?】経済学とは何か

2022/10/08

経済学とはどんな学問か(高橋 真)

1.経済=おカネではない・・・間違いを正す

 「経済」(economy)という言葉は、ニュースやネット上にもあふれているし、政府も「経済を動かす」という言い方をしています。その多くの場合は、「カネもうけをする」とか、「おカネを手にする」といった意味でつかわれています。
 確かに、今はおカネ(貨幣・money)を中心にして経済が動いているという意味で、「貨幣経済」といわれますから、おカネがキーワードにはなりますね。しかし、おカネがすべてではありません。おカネは、経済の一部にすぎません。
 「経済学」では、次のように考えます。

 経済とは、人々が必要としている・欲しいと思っているものを、作り(生産)、それを手に入れて使う(消費)ことです。その際に、作ったものを欲しい人との間で交換(流通)し、それで収入を得る(分配)ことです。そこには、ものを作る人と欲しい人と収入を得る人と使う人がいます。・・・・・この全体の流れや人間の関係性が「経済」です。

 すなわち、人間が欲しい・必要とするもの(財)を生産 → 交換(流通)→ 分配 → 消費する過程とそこにかかわる人間の社会的関係経済です。
 

2.経済学とは、何か? ・・・経済理論の集合体

 高校生の中には、「高校の公民科目で経済を学んだので、経済学をしっている」という人がいます。本当に、そうですか?

「経済学」(economics)というのは、経済に関する理論や学説の集合体とも言えますし、内容によってはそれぞれの見解が分かれているものがあります。ここで、標準的な経済学(standard economics)の考え方を示しましょう。

   経済学とは、「希少な資源をどのように効率的に配分するかを研究する学問」です。

 ほらほら、もう引いてしまいましたね。これは、どういうことか、わかりにくい?
もう少し、かみ砕いて考えてみましょう。

 例えば、私たちは全員1日24時間という、しかも一生に一度しかない時間を過ごしています。その意味で、1分、1秒が希少な資源です。その希少な時間という資源を、「どのように使う(配分する)ことが、より自分にとって満足が大きいか」を研究する学問が経済学だということになります。1日24時間のうち、8時間を睡眠時間にして、通学時間を1時間にして、勉強時間を8時間にして、・・・といった配分が自分には一番満足のいく時間配分ですという具合です。

 そこには、自分の満足や利益を最大限に求めて行動する人間が、想定されています。それを「経済人」(ホモ・エコノミカス)といいます。皆さんが、高校の公民科目で学習している「市場機構」や「需要曲線」や「供給曲線」などのお話は、この経済人がその前提になっています。とはいえ、あくまでも、これは理論を展開するためのモデルになります。ここで、標準的な経済学として示した経済学が「新古典派経済学」(neo classical economics)といわれる経済学のグループです。

 もちろん、アメリカ独立宣言と同じ年の1776年に『諸国民の富』(または『国富論』)を著した経済学の創始者といわれるアダムスミスは、古典学派という経済学グループになりますし、1936年に『雇用・利子および貨幣の一般理論』を著したジョン・M・ケインズに始まるグループは、一つにはアメリカ・ケインズ派が、そしてもう一方にはポストケインズ派もあります。それ以外にも、ドイツ歴史学派やマルクス学派や新自由主義や制度学派や公共選択学派などがあります。最近のブームでは、行動経済学派が良くテレビで取り上げられています。
 
 その意味では、ある高名な経済学者は「経済学者の数だけ経済学はある」といっていました。またイギリスのジョーン・ロビンソンという女性の高名な経済学者は、「経済学を学ぶ意義は何ですか」という学生からの問いに「経済学者にだまされないためだ」と回答したという話をあります。

 その意味でも、「面白くて奥が深い」単なる「暗記では済まない」世界が経済学だ、ということになります。