SDGsコラム 目標 9強靭(レジリエント)なインフラ構築、 包摂的かつ持続可能な産業化の促進 及びイノベーションの推進
2022/10/05
産業と技術革新の基盤をつくろう(阿留多伎 眞人)
産業革命
SDGsの9番は「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。
産業基盤といえば18世紀の産業革命が思い浮かびます。技術革新の端緒となったのは、1733年にジョン・ケイが、飛び杼を発明したことと言われています。1967年にジェームズ・ワットによって新方式の蒸気機関という動力源が発明されて以来、資本主義経済と技術革新が産業革命を発展させ、織物産業から重化学工業へ、そして現代の情報産業へと人類の生活を著しく変化させました。同時に、工場労働者は都市へ、都市へと流入し工業都市の爆発的な人口増加を招き、衛生問題や公害が発生するようになりました。
大規模公共投資
しかし、右肩上がりの工業化社会は1929年に起こった世界恐慌で暗転し、失業者が都市にあふれたのです。アメリカで失業対策の決め手となったのはフーバーダムの建設でした。1936年にアリゾナ州とネバダ州の州境に竣工したフーバーダムは当時世界最大のダムとして400億トンもの水を湛え、発電、水道、水位調整、灌漑を行い、アメリカの再生と発展の原動力となりました。我が国では1963年に完成した黒部ダムの建設は映画にもなるほどの大事業で、電力不足を解消し、日本の高度経済成長を支えました。大恐慌や戦災を乗り切った国々は工業化が一層進み、さらに都市へ、都市へと若者を集めました。大規模化した都市は若者のあこがれの地となりました。産業技術の発展により拡大した工業化社会ですが、実はダムはもちろんのこと、高速道路や下水道の整備、河川の改修、港湾や空港の整備、大量の住宅供給やニュータウンの建設などの基盤整備という縁の下の力持ちによって支えられているのです。
環境問題と基盤整備
工業化社会は人類の欲望を満たし、生活の利便性を著しく向上させましたが、自然破壊や公害等の都市問題、さらに温暖化などの地球環境問題、あるいは貧富の差の拡大など、実に多岐にわたるマイナスの副産物を大量に発生させています。もちろん基盤整備分野でも環境問題に対して積極的に取り組んでいます。例えば、下水道の負荷を低減させる透水性舗装は40年前にはすでに実用化されていますし、建設副産物実態調査によれば平成30年度の建設廃棄物の再資源化・縮減率は約97.2%にものぼっています(注)。
さらに大地震や豪雨といった災害の増加は苦労して建設した都市基盤を壊滅させますが、災害からの復興にも基盤整備の技術は欠かすことができません。東日本大震災では復興庁は住宅再建・復興まちづくり部門に13兆4,251億円(令和2年度まで)を執行しています。私も岩沼市玉浦西地区の防災集団移転事業の立案や名取市、松島町、岩沼市の復興のための基盤整備の計画づくりを通して微力ながら震災復興に参加するとともに、基盤整備の重要性と役割を再認識することができたと感じています。
注)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d11pdf/fukusanbutsu/jittaichousa/H30sensuskekka_gaiyou.pdf
心に届く基盤整備
愛宕地区の山車に掲げられたピカボード
先日、知人の紹介で大船渡市盛町の夏祭りに私が発明したサインボードのピカボードを提供することになりました。当日、盛町の商店街には周辺の地区から市民が大勢集まってきました。各地区から集まった9台の山車が勢ぞろいしたお披露目では、大船渡市長がテープカットを行い、餅撒きが行われました。撒くたびに子供も大人も大きな歓声をあげます。翌日は9台の山車が商店街を練り歩きました。手作りとは思えない立派な山車。聞けば代々引き継がれ、側面には毎年描き替えるイラストが和紙に描かれています。このために帰郷する大船渡の出身者も多いとか。愛宕地区の山車には提供したピカボードで作られた「愛」の字が光っています。
大船渡市の盛町は古(いにしえ)から続く商店街であるため、巨大な基盤整備などは行われていません。しかし、お祭りには現代でも住民がこぞって参加し、伝統を引き継いているのです。生まれ育った街を愛し、家族や隣人が街に集まり、世代を超えて街を引き継いでいく。大規模な基盤整備も大切ですが、街を引き継いで来たのは住民の街への愛です。そんな住民が育つ街をつくることが基盤整備の役割だと再認識することができました。まさに基盤整備は舞台づくりであり、主役は住民なのです。
自動車やジェット機、海岸や河川、森林や湖沼、スピードや規模の効果、効率やコストパフォーマンスといった基盤整備の対象や考え方と同じくらい、人々の生活や街への愛着に配慮する基盤整備を考えていきましょう。