【それって、どんな学問?】教育学とは何か
2022/08/01
教育学とはどういう学問か(太田健児)
教育学とは
教育学は人間関係学と言い換えることができます。教員養成の学問としてだけではなく、胎教、親子関係、友人関係、先生との関係、大人との関係、大人同士の関係、男女関係、終末期の人生観、社会や文化や情報と個人との関係まで含む学問です。人が二人いればそこには「教育的関係性」というべきものが発生します。また人間何歳になっても「変わりたい」「変わらなくてはいけない」という二つの課題から解放されないわけですが、これだって教育学の守備範囲なのです。「変身・変心」の科学というウラ技も教育学はもっているのです。
「学び」の社会的背景
「学び」という用語は昔からあったわけではなく、それまでは「学ぶ」か「学ばせる」かのどちらかでした。人間が“ある方向”に“変化”していく際、“ある方向”は大人が議論して決めることです。最後は国の方針としての是非も問われます。だから教育学を最初に担ったのは哲学者だったのです。一番大事なことが分からなければ何を教えるべきかも決まりません。哲学が「人間存在基礎論」である由縁がここにあります。しかし“変化”する主人公は私たち一人一人です。けれども赤ちゃんや子どもや生徒、大人だって全て自力で“変化”することはできず、親や教師や友人がいて、様々な“出会い”があって、社会環境、自然環境・情報環境などに取り囲まれ、相互に影響しながら“変化”するのです。受動的かつ能動的なこのプロセスを「学び」という用語は実に見事に表現しています。「人間存在基礎論」に対して教育学が「人間形成論」といわれる由縁がここにあります。ちなみに哲学ではこれらを「存在と生成」と表現します。教育学はその後、他分野の研究成果を取り入れ発展しましたが、他分野の「どれが」「どのように」使えるかが今、研究の最前線で競われています。
他者との関係を深める教育学
こんな微笑ましい話があります。あるアイドルが学校や幼稚園を訪問するTV番組収録時、その幼稚園で先生方が手を焼いている非常に乱暴な男の子が早速そのアイドルにボクシングで闘いを挑んできて、とっさにクリンチしたら、その男の子が急に大人しくなってアイドルの腰に抱きついて離れない。抱っこされたと思って「なついた」わけです。乱暴狼藉はたった一回のハグで収まったわけです。これを理論で説明するのは簡単ですが、そこにはドラマがあり、共感があり、他者への豊かな想像力があり、感動も伴っています。これこそが教育学なのであり、その醍醐味でもあるのです。