SDGsコラム 目標16「平和」 平和と公正をすべての人に
2023/01/09
憲法と平和な社会(寒河江和樹)
政治参加と自由な言論
政治参加と自由な言論は、民主主義の眼目である。国政への参加が特定の集団に制限され、政府への批判を封殺する社会は、民主的とはいいがたい。このような社会は、結局、特定の思想をもつ個人や集団を抑圧することになる。したがって、憲法が普通選挙と表現の自由を保障する意義は大きい。国民が議会代表者を自らの意思に基づいて選ぶことができる選挙制度と、国民相互間の自由なコミュニケーションを可能にする仕組みは、民主主義の基礎となるインクルーシブな社会に不可欠の要素である。
権利保障と裁判
憲法は個人の基本的人権を保障する。しかし、政府により個人の権利が侵害された場合、その個人を救済する仕組みはないのであろうか。政府は公益の実現を目的とする有機体であるが、公権力を行使する法主体であるので、個人が孤独に対抗することには限界がある。憲法は、最高裁判所を頂点に置く裁判所制度の構築を法律に命じ、かつ違憲審査制度を確立する。これにより、政府が個人の権利を侵害する場合、政府の行為を裁判によって審査し、個人を救済する途を用意した。かかる裁判にアクセスする資格は、裁判を受ける権利として、すべての国民に保障される。
平和な社会を守るのは誰か
憲法は、民主主義と基本的人権の保障を目的とした、政府が遵守しなければならない最高法規である。しかし、憲法は厳正な規範であるものの、それ自体は文書にすぎない。では、実際に民主主義と基本的人権を守るのは誰か。主権者たる国民が政治へ主体的に参加し、政府による権利侵害と憲法違反に厳然と異議を申立てなければ、憲法が守ろうとする価値は空虚と化すだろう。政府に対抗しうるインクルーシブで強い社会を作ることができるのは、近代社会の市民たる自律した個々人だけである。公正で民主的な社会を作り上げ、これを後世に伝えられるか否かは、われわれ国民の手に委ねられている。