韓国人の対人距離の近さについて(呉 正培)
2022/06/15
2021年に共同研究として、長年韓国文化を楽しんでいる日本人を対象に、韓国文化の魅力と違和感についてのインタビュー調査を行った。調査の結果から、韓国人の対人距離の近さは、日本人が魅力を感じる要素でも違和感を覚える要素でもあることがわかった。ここでは、韓国人の対人距離の近さについて、個人的な見解を述べる。
調査の結果では、日本人が韓国人の対人距離の近さについて魅力を感じる要素が2つあった。1つ目は、知らない人でも困っている人がいたら、言わなくても助けてくれるところに人情や温かさを感じるということである。韓国では、困っている人を助ける際に遠慮は不要で、場合によっては相手に助けが必要かを聞かずに行動に走ることさえ許容される。つまり、相手を助けるという善意の動機があれば、進んで行動することが良いとされる。2つ目は、包み隠さず、何でも率直に言うフレンドリーさが付き合いやすいということである。韓国人の正直でストレートな伝え方は、仲が良いと思う相手や仲良くなりたいと思う相手に好意を示す行動として解釈することができる。つまり、隠さず何でも伝えるということは、相手に好意を抱いている、親密な関係になりたいという気持ちを表している。
一方、韓国人の対人距離の近さについて違和感を覚える要素も2つあった。1つ目は、腕を組まれたり、個人的なことを聞かれたりする、物理的・心理的距離の近さに対する戸惑いである。韓国では、恋人や配偶者のみならず、家族や同性の友人の間でもスキンシップをすることがよくある。親子で手を繋いだり、ハグをしたり、同性の友人とも肩を組んだり(男性同士)、腕を組んだり(女性同士)する。相手との物理的距離を縮めるスキンシップは、相手に対する親密感を示す1つの表現手段である。また、家族や親友のような親しい人や、親しくなりたい人に対しては、聖域なく何でも聞き合い、話し合うことが許容される。日本人がこのような慣れない物理的・心理的距離の近さに遭遇し、途方に暮れ、ストレスを感じるのは当たり前の反応かもしれない。2つ目は、親しくなる速度が速いこと、急速に距離を縮めることに対するプレッシャーである。韓国では、相手に対する好意を、相手との距離を積極的に縮める行動で示すことがある。好意が強ければ強いほど急速に距離を詰めてくることがあるが、それは日本の「親しき仲にも礼儀あり」という一定の距離を保つ文化では、居心地の良いものではなく圧力として作用しうる。
韓国人の対人距離の近さには、好意を自分のペースで積極的に表現することが好まれる文化的背景があると考えられる。一方、日本人の対人距離の遠さには、好意を相手のペースで控えめに表現することが好まれる文化的背景があると考えられる。では、積極的に距離を縮める文化の韓国人と、常に一定の距離を保つ文化の日本人が交わると、どのような誤解が生じるであろうか。相手の行動を自分の文化的背景から解釈すると、韓国人は相手の控えめな行動から、相手の自分に対する好意があまりないと判断するかもしれない。一方、日本人は相手の積極的な行動を配慮のない強引な行動と捉え、負担や圧力を感じるかもしれない。両者が交流する場面で、誤解を減らし、ストレスの少ない付き合いをするためには、相手の行動を自分の文化的背景ではなく、相手の文化的背景から解釈しようとする努力が求められる。そして、時には、自分の文化的背景を丁寧に説明するなど、相手に自分のことをわかってもらうための努力も必要である。