岩手県出身。弘前大学(教育学部)卒業後、同大大学院教育学研究科へ進学。大学院修了後、尚絅女学院短期大学教員を経て、2007年に尚絅学院大学教員に就職。在職中に博士後期課程を満期退学。学生に「住環境教育」を教える傍ら、地域のワークショップやイベントでファシリテーターとして協カ・支援を続ける。
こども環境学会、日本建築学会、日本家政学会、日本家庭科教育学会所属。
学外委員として、仙台市景観総合審議会、仙台市文化財保護審議会、仙台城跡保存活用計画等検討委員会、若林区区民協働まちづくり事業評価委員会を歴任。
研究テーマ
- 自治体が主導する景観教育の現状と課題
今後取り組みたいテーマ,興味など
- 小学校における景観学習の実践研究
- 蔵の街並みの保存活用とまちづくり
主な学外活動
- NPO団体「建築と子供たちネットワーク仙台」の一員として活動に参加。
- 小学校の総合学習・地域講座において、アメリカ、イギリスの建築教育のmethodを活用した学習の外部講師及び補助を多数担当。
大学3年の運命的な出会いを経て、住居学を研究
小学校の冬休みに手編みのセーターを編んだり、家族の夕飯をつくったり。「実務」的な家事全般が好きだったという馬場氏。中学校の技術の授業で、木材の性質や工具を学び、本棚の製作を手がけたことをきっかけに家政学分野の中でも、部屋の家具やインテリアコーディネート、建物への関心が高まっていった。そんな中、岐路となる出来事が起きる。中学時代の夏休み。北海道の祖母宅へ遊びに行き自宅に戻ると、家がリフォームされていた。2階建ての実家の階段が2つに増え、1階と2階が回遊できるつくりになっていた。「空間が変化することで動線が変化し、暮らしのリズムがこんなにも変わるのかと実感した出来事でした。衝撃的でしたね。ただ、機能を優先した結果、建物の外観は不思議な形になってしまったので、設計の初期段階で、10年後、20年後の生活をイメージしておく必要があることも、同時に学びました」
家庭科教育全般を学ぶため、大学では教育学部に進学。2年生の時には「家庭科教育」という講座に所属希望を提出していた。しかし3年生の時、恩師との運命的な出会いを果たす。東北大学工学部建築学科から新しく異動されてきた教員が、新設の住居学講座を担当すると耳にしたのだ。馬場氏は、「住まいやまちづくりについて専門的に学ぶチャンス」ととらえ、所属講座を変更。住居学を専門的に学ぶこととなった。「それまでは、それほど多くの都市を訪れたことがなかったので、いろいろなまちで直接見聞を広げることができると思い、期待で胸がいっぱいになったことを覚えています」
自身が直接伝えるよりも、伝える人を増やす道へ
住居学のゼミに所属した馬場氏は、恩師のネットワークから、ゼミの仲間とともに阪神淡路大震災のボランティアに関わり、復興まちづくり、住民参画のまちづくりについて学ぶ機会を得た。未熟な若い学生の力でも地域の支えになることを実感し、研究への意識がますます高められたという。「大学院では、全国の県庁所在地の教育委員会を対象としてアンケートを実施して、住環境教育の現状や教材の実態について調査、分析しました。また、住環境教育の中でも、『景観学習』を実施している小学校を調査対象として、授業プログラム作成に参加させていただきました。地域の実清や子どもたちの理解度に応じて、臨機応変に授業プログラムを考案する大切さは、自身の教育の士台になっています」
小学校教諭の母の影響もあり、大学院修了後は小学校で教鞭をとる予定だったという馬場氏。準備を進める中で、恩師から大学教員の道もあると示された。小学校では、子どもたちに住環境教育を“直接”伝えられる。しかし、大学で教職を目指す学生や、近い将来親になり子どもを育てる学生に“教え方を教える” ことができたら、より多くの人に伝えられる。そう助言をもらぃ、研究者であり教育者でもある大学教員に進路を変更。1998年より、自然豊かな環境の中にキャンパスを構える尚絅学院大学に就職し、「住環境教育」「景観デザイン」「住居学」などを学生に教える日々を過ごす。「『住環境教育』は、住空間や、身の回りのまちの環境をより良くするための教育です。『景観デザイン』は、主に屋外空間を対象としますが、地域景観や街路景観の他に、緑化を含めた公園景観から、里山のランドスケープまで、広い範囲のデザインも含みますね。また、人々が快適に過ごすことができるオープンカフェ空間、駅前広場など、デザインの対象は多岐にわたります。『住居学』は家政学の中の住居領域を示す学問分野に位置づけられることが多いです。それぞれ対象が異なり、学ぶべき範囲は非常に広くなっています」
まちづくりの研究の面白さは、ゴールがないところ
馬場氏が現在取り組む研究テーマは「自治体が主導する景観教育の現状と課題」。まちづくりは行政だけが行うのではなく、住人自らがまちをたのしむ視点を持ち、知恵を出し合うことが大切であると話す。同じ考えから、地域のワークショップやイベントヘの協カ・支援も積極的に行っている。「主役は、地域に住む住民の方です。ファシリテーターとして関わらせていただく時は、みなさんから地域の魅力を最大限に教えていただき、その魅力を持続させるアイディアをたくさん出してもらいます。そして、第三者の視点で、実現性の高い提案ができるよう、助言できればと考えています。まちづくりの研究の面白さは、ゴールがないところにあります。意見がぶつかり、最善策を見つけ出すプロセスの中でコミュニケーションが図られていく。まちづくりが人づくりといわれる所以ですね。」
仙台市内の新エリアの造成工事では、地元の小学生が公園を考える総合学習をサポート。担当するゼミ生と一緒に何度も小学校に通い、国定公園の視察、模型づくり、市長への提案など、一連の授業プロセスを実行。また、仙台市の景観重要建造物に指定された店蔵の修復の際、地元の小学生が格子壁の“紋”をデザインする学習を手伝ったこともある。その“紋”は実際に使用され、まちの景観の一部として溶け込んでいるという。子どもたちからは「古くて使われていない建物でも、守ろうという気持ちでがんばれば、何もできないと思っていた自分たちも役に立つことができる」と声が寄せられ、まちの一員であることへの自信と誇りにつながったことを感じた。
「ヨーロッパやアメリカでは、学校教育の中で、建築やまちのデザインについて学ぶ機会があります。残念ながら日本では、都市計画の手法を学ぶところまで踏み込んだ授業は展開されていません。私の研究テーマは、子どもを含めた地域住民の意見が、まちの計画に反映される仕組みをいかに整えるか、そのための課題は何か、明らかにすることといえます。これからより多くの人が、地域づくり、まちづくりに関わり、いろいろなアイディアが生まれるよう、学生への教育と自身の研究を続けていきたいと思います。」