京都府出身。横浜国立大学(経営学部)、横浜国立大学大学院(国際社会科学研究科)を経て、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。
その後、北海道大学公共政策大学院博士研究員を経て、2014年より尚絅学院大学総合人間科学部環境構想学科准教授として勤務。
環境経済政策学会、日本経済政策学会所属。
研究テーマ
- 分散型電源を活用するための電力市場制度設計
今後取り組みたいテーマ,興味など
- ヨーロッパの電力市場制度の相違が再エネ拡大に与える影響
- イギリスと東京における業務部門排出取引の導入後評価
1997年「京都議定書」を契機に、環境経済学を学ぶ
小学生の時、チェルノブイリ原発事故に衝撃を受け、エネルギーや気候変動の問題に強い興味を抱いてきた東氏。しかし、頭の中で「興味をどう学びに結びつけるか」の答えが出ず、どの分野から環境エネルギー問題にアプローチするのかを決めかねていた。人生の岐路となったのは、1997年。大学受験浪人の最中、新聞で読んだ「京都議定書」の記事だった。「CO2に価格を付けて取引する」という排出取引の仕組みを初めて知った東氏は、経済学から環境エネルギー分野にアプローチすることを決意。この頃のことを「浪人しなければ、京都議定書の新聞記事にも、今の研究にも出会っていなかったかもしれない。自分にとって転機となった1年間でした」と振り返る。
大学、大学院と進み、研究を重ねる中で見えてきた最終的なゴールは「CO2削減」。そのための方途を模索する日々。さまざまな解決法が社会で飛び交う中、東氏には譲れない柱があった。「個人の努力も素晴らしいが、一人ひとりの我慢や節約には限界がある。大きな企業が率先して取り組まなければ、長期的な解決には至らない」。電力産業からのCO2排出量は日本の排出量の40%を占めている。全電力会社が石炭からガスに燃料を転換するなどした場合、どれほどCO2を削減できるのか。また、どれほどコストがかかるのか。この推計が、現在の研究の第一歩になった。
環境に優しい行動が「選択される」仕組みづくり
東氏にとって、そして環境エネルギー政策研究に携わる者にとっての大きな転換期。2011年3月11日、東日本大震災。環境経済学の分野では、排出取引などの気候変動政策の研究が盛んになされる中、複数の発電所が停止した。電力安定供給の裏側にあった大規模集中型電源への依存、地域独占的な電力供給体制の課題が浮き彫りになったのだ。「もう排出取引などの気候変動政策の研究どころじゃないですよ。そもそも原発に頼ってきたエネルギーシステムの現状に、ようやくみんなの目がいった、というところでしょうか」
東氏は現在、再生可能エネルギーを代表とする分散型電源を活用するための市場制度設計について研究。震災後に導入された固定価格買取制度によって、再生可能エネルギーへの投資促進には一定の目処が立っている一方、分散型分散型電源を活用するための市場制度がまだ整っていないためだ。発電量が天候に左右されるという再生可能エネルギーのデメリットを、誰が、どのようにカバーするのか。カバーすることで利益が生まれる市場制度ができれば、再生可能エネルギーが今後さらに拡大するチャンスが生まれるのではないか。東氏は、「環境経済学の役割は、環境に優しい技術や取り組みを社会実装するための仕組みづくり」だと言う。つまり、人や企業が、環境に優しい行動を選択するように促す仕組みをつくることだ。どこかに、誰かに無理が生じることなく、環境や社会への影響を織り込んだ行動が利益につながり、結果的に選択される仕組みができれば、環境問題解決への大きな一歩となることは間違いないだろう。
自分も、学生も、「なぜ?」を突き詰めて
東日本大震災後、ドイツを中心にヨーロッパの電力市場制度の比較を行い、分散型電源の拡大に対するメリット・デメリットが明らかになってきたと話す東氏。今後は、制度の相違点が、再生可能エネルギーの普及拡大やそれに伴うコストベネフィットなどの市場パフォーマンスにどのような影響をもたらしているのか、データを集めて分析していく。
尚絅学院大学では、東北各地で取り組みが進む再生可能エネルギー事業を学生と見学するほか、再生可能エネルギーを起点とした「まちづくり」「地域再生」など、これまで取り組んでこなかった分野の勉強をする機会に恵まれているという。また、山に囲まれた自然豊かな構内で、雑草除去のためにヤギを飼育したり、里山の自然資源を利活用する取り組みに挑戦するなど、尚絅学院大学ならではの環境を活かした発見が少なくないという。「工学や農学、林学など、他分野の先生方と組んで、多角的に研究を進める面白さも実感しているところです。」
東氏の研究の奥底にあるのは、「なぜ?」という純粋な疑問だ。「99%はトンネルの中、1%出て、またすぐトンネル」と表現する研究の日々で、知らないことを知る楽しさ、疑問を突き詰める達成感が、原動力になっている。学生の育成においても、単純に制度を知るのではなく、その政策の意図は何か、なぜそう考えるのかという、根源的な問いを促す。「2018年から『再エネと地域再生』をテーマにしたシンポジウムを開催するなど、東北で再エネを考える機会を増やすよう取り組んでいます。皆で考える『場』をつくることで、地域に少しでも私の研究を還元できるとうれしいですね。」