12月ティクバだより
2024/12/12
ご挨拶―ジェンダー、セクシュアリティ、LGBTの研究を始めたきっかけ
初めまして。今年からティクバの相談員となりました日野映(ひのはゆる)と申します。
相談員になって初めてのティクバ便りになりますので、今回は軽く自己紹介を混ぜたお便りを書かせていただこうかと思います。
私は普段、カウンセリングなどの対人支援をする傍ら、ジェンダーやセクシュアリティを専門とした研究活動を行っております。
関心をもったきっかけは、病院や学校で支援を行う中で出会った、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランス)、他様々なジェンダー、セクシュアリティのクライエントさんから寄せられた声にありました。「院内のスリッパがピンクか青しかない」「申し込み表の性別欄が男、女しかない」「呼ばれる時に「さん」や「ちゃん」が使われる(男性なら「くん」)」「恋人の話しをすると恋人=異性と思われて話しが進んでしまう」などの声です。社会全体も多くの場合そうですが、私たちが提供する支援の中でも、シスジェンダー(自分で認識している性別と身体の性別が一致している)、シスヘテロ(恋愛対象が異性)ではないクライエントさんは「ないもの」にされていることがよくあるのだと、当事者が挙げてくれた声から気づかされました。
そうして調べてみると、例えば「結婚」や「家庭を持つこと」を成熟として捉えたり、男性なら「仕事ができる」、女性なら「恋愛をする」や「子育てをする」ことを心の回復として捉えたり、普段自分が使っている心理学の中にも、性を男女の二つに分け、男らしさ、女らしさを要求する規範があることが分かってきました。
これでは確かに、シスジェンダー、ヘテロセクシュアルな男性、女性以外の人が利用しにくい支援になってしまう。それだけでなくシスジェンダー、ヘテロセクシュアルな男性、女性にとっても、「自分らしさ」より「男らしさ・女らしさ」が求められるのは息苦しいのではないか―。そんなことを考えて、ジェンダーやセクシュアリティの研究を始めたのです。
精神分析という学問を立ち上げたフロイトは、本来人間はクィアであると言います。つまり、本来人間は「多様な性」の可能性をもって生まれてくるのだということです。その後、家族や社会が決めたルールの中で、男女に振り分け、形作られていくのです(このあたりは哲学者のフーコーやバトラー、その他多くのフェミニズム研究で述べられているところです)。しかし現代、社会のルールが大きく見直される中、本来存在した「多様な性」も再び注目されるようになっています。心理学も徐々に変わっています。
今まで「ないもの」にされていたものが見られるようになったのは素晴らしいことの反面、見えてきたからこそ新たな課題や問題が様々に生じていることも事実です。今後、そうしたジェンダーやセクシュアリティ、性に関する悩み(当然、他の悩みもですが)も相談しやすい相談室にしていければと思いながら、初めてのお便りを締めさせていただきます。
日野映