2月 ティクバ便り
2024/02/13
他者のため、自分のため ー自己有用感をめぐってー
幼児は欲しいものが手にはいらないとよくかんしゃくを起こします。その頑固さに手を焼く親御さんもおいででしょう。一方で、年齢に伴い次第に自分から他児におもちゃを貸してあげる姿や、その場全体のために手伝おうとする姿が見られるようになります。大人が思わず「えらいね!」「ありがとうね!」「助かるよ!」と声をかけてあげたくなる場面です。ほめられた子どもの方も、ちょっと照れながら誇らしそうです。自分の欲求を通すだけではなく他者のことを考えて行動したことで感謝された、認めてもらったという気持ち(自己有用感)は、子どもたちにとっての大事な学習です。
自己有用感は、単に自分で自分のことを素晴らしいと思っているような自己肯定感とは異なります。そこには必ず他者が存在しており、他者のための行動に対して他者からポジティブなフィードバックを受けることで、自分の役立ちを知ることができるのです。「私の行ったことはあれで良かったのだ」と自分を受容することができ、自己へのポジティブな感情にもつながります。
子どもが身近な大人たちから自分の利他的な行動を認めてもらうことは、その後の子どもの社会性の発達において、とても重要な意味を持ちます。子どもが他者との対人関係を通して「自分がしたことを喜んでくれる人がいた」「人とかかわることで良い気持ちになれる」と感じることが出来れば、「人や社会とのかかわり」のポジティブなイメージが形成され、その後の行動範囲が拡がり、青年期には社会への関心や仕事への意欲を育てるでしょう。
ところで、このような自己有用感が重要なのは、成長途上の子どもたちだけに限りません。成人であっても高齢者であっても、自分の存在が他者とのつながりの中で(家族、職場、地域など)の中で尊重され、その場で何らかの役目を果たし他者から承認されていることの喜びは他に代えがたいものであり、当人の生きがい感を高めます。
ただし自己有用感は、他者のためにわが身を呈するような自己犠牲とは異なるということも考えておかなければなりません。役にたったかどうかは、サポートを行った人が決めることではなく、サポートを受けた側が「助かった」と感じるかどうかが大事です。また、他者のためにということばかりが気になり、何につけても自分を抑えたり抱え込んだりすることになると、対人関係が息苦しくなるでしょう。冒頭に記した幼児の例でも、他者のために自分を抑える姿は尊いですが、自分の気持ちを正しく主張できることも大事な“力”なのです。大事なのはバランスだと言えましょう。
社会のために自分を活かす時間、身近な他者(家族、親戚など)のために自分を活かす時間、自分のために自分を活かす時間、そして何のためという目的にしばられない自由な時間・・・。時と場所と状況に応じて、今は自分の意思を貫きたい、今は家族のことが大事、今は社会のために…などが組み合わさることで、生活はより充実したものとなるでしょう。
(加藤)