【学校教育学類】 中国古典文学(漢文学)へのお誘い(田中)
2021/01/07
我が故郷の高校は、建っているその地が桜壇というように、桜の名所にあり、校舎は多くの桜の木々で圍まれておりました。中には樹齢数十年の大木もありました。春三月も半ばになると、それまで一メートルほどに積もっていて、どうにもならなかった雪(根雪)が日一日、みるみる溶けていくのを見ると、自然の力の大きさを感じさせられました。そして四月になって温かくなってくると、桜の花が一斉に咲き始め、咲き誇り、やがて風に吹かれて、散り始め、桜吹雪となるのが見られました。
その高校生の頃、読んだ詩に三好達治の「甃のうへ」というのがあります。
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
……
このような散る桜を眺めて愁いに沈むというような情感は実感できませんでしたが、共感はできました。
また同じ頃、漢詩の劉希夷「代悲白頭翁(白頭を悲しむ翁に代る)」という初唐の詩に触れる機会がありました。
洛陽城東桃李の花
飛び来たり飛び去りて誰が家にか落つ
洛陽の女兒顔色を惜しみ
行く行く落花に逢うて長嘆息す
今年花落ちて顔色改まり
明年花開いて復た誰か在る
……
「甃のうへ」に感じたのと同じような情感を感じ取ることが出来ました。千数百年前の中国の詩人の心に直に触れたように感じました。異国の人のものでも、その心は伝わるらしいと知りました。
(田中和夫)