尚絅学院大学

学校教育学類 お知らせ

【学校教育学類】 授業紹介「特別支援教育総論」(能田)

2020/08/25

 学校教育学類で特別支援領域の科目を担当している能田です。特別支援教育や、虐待や貧困、災害等も含む子どもが抱える様々な困難・ニーズを対象とする特別ニーズ教育分野で研究をしています。

 

 「特別支援教育総論」は学類の履修推奨科目として、取得免許に関わらず、可能な限り全ての学類学生に学んでもらいたい科目として設定しており、特別支援教育制度の仕組みや江戸時代から辿るその歴史的変遷、身体障害から発達障害・知的障害などの各種の障害、貧困・虐待等を含む多様な特別ニーズとその教育的支援、北欧諸国を中心とする海外の特別ニーズ教育などについて学びます。教育において子どもに「どう教えるか」だけでなく、各障害や特別ニーズへの着目を通して、どう一人一人を尊重し、その成長・発達や学び、願いに伴走するのかという視点を大切にして欲しいと思っています。履修者の多くは1年生で、初めて触れる分野であるなか、情報量ばかり多い講義になってしまいがちでしたが、毎回の内容に丁寧に向き合ってくれていました。

 

 講義の中盤、津久井やまゆり園の事件に関して、オンライン上で小グループに分けてディスカッションを行いました。「たとえ重い障害があっても、人に何か伝えたいという気持ちに変わりはない。」「『健常者』でも何らかの弱さを持つ方もいる。誰しもが社会的弱者になりうる社会。」一見すると自分たちと遠い存在であった「障害者」について考えながら、浮かび上がってくる共通項にはいくつもの大切なテーマが含まれており、障害やマイノリティの問題を通して、「多様性」の意味について自分たちなりに考えを巡らせてくれました。

 これに関連して、神奈川フィルハーモニー管弦楽団と、神奈川県立津久井養護学校が協力し、「BELIEVE」をリモートで合唱・演奏した動画も観てもらいました。(「神奈川フィル×津久井養護学校『BELIEVE』」https://www.youtube.com/watch?v=a4BINwiiAKY)子ども達がそれぞれの方法で声や音を集わせ、目一杯表現していること、伝えていること、学校関係者とともに神奈川フィルの演奏があり、ひとつの作品となっている様は、「ともに生きる社会」について、あの事件から4年目を迎えた地からの、力強いメッセージと感じています。

 

 最終回の講義コメントに、「人の数だけ、思いがあり願いがある。その人が1番ありたい姿は何なのか、私に出来ることは何なのか、私たちに何が出来るのか。それは教育にとっての永遠の課題でありながら、答えがあるような気もするし、ないような気もする。」と書いてくれた学生がいました。私たちはすぐに「答え」を求めてしまいがちですが、是非そのように誠実に悩まれながら、「その人が1番ありたい姿は何なのか」という視点を大切に、学んでいって欲しいと思います。

 

 さて、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行は依然として予断を許さない状況が国内外で続いています。歴史上の感染症と同様に、パンデミックが生命・生存への直接の脅威となる厄災であることを、私たちは改めて目の当たりにしています。子どもの学びへの影響は甚大であり、世界各地で見られた障害者への医療対応における差別的対応なども、見逃せない問題です(出典:2020年5月6日 京都新聞「障害者『命の選別』に危機感 新型コロナ、欧米で治療後回し事例も 親の会『容認できず』」等)。災害・パンデミックを含むライフハザード、弱者排除の風潮のなかに潜む優生思想など、「生きること」が制限されてしまいかねないこの時代において、「教育」にはどんな役割があるのか、特別支援教育・特別ニーズ教育は子どもの成長・発達・生存の保障のためにどのような働きをすることができるのか、私自身、丁寧に学びながら、学生の皆さんとも一緒に、考えていきたいと思います。