尚絅学院大学

学校教育学類 お知らせ

【学校教育学類】授業にこだわる仲間たち

2025/03/17

 私は理科の授業方法や教材を研究・教育する分野で30年間を越えて禄を食んできた人間である。だから、私は授業を見るのが大好きだ。どんなストーリーを組み立てるのか、どんな教材を使うのか、どんな教育方法をとるのか、他人の授業の始業前の教室に入るとウキウキしてくる。

1 大学の授業を見る

 一昨年度、私は学校教育学類長から、「学校教育学類を担当する先生方の授業を見学し、授業を考える糸口となるような話題を先生方に提供せよ。」と依頼を受けた。ワクワクドキドキしながら仲間たちの授業を見て回った。

 素直に驚いた。仲間たちは、実にいろいろな工夫を凝らしている。例を二つ挙げてみよう。

 

【温泉から太古の地球へ】

「温泉学概論」は、学生自身が興味を持った温泉に赴き、取材した様子を報告する授業である。

授業をのぞいてみたら、熱い温泉水が流れる岩の隙間に見つけた青緑色の藻を学生が撮影してきたスライドを映しながら報告していた。地球がまだ熱かった40億年程前に栄えた生物の末裔と言われる、シアノバクテリアである。シアノバクテリアは酸素発生を伴う光合成を行う。酸素がほとんどなかった大気にシアノバクテリアが発生した酸素は、地球の生命系を一変させた。学生の発表と教員の解説を聞くうちに、学生が撮影した温泉の熱湯の流れに、地球の生命史が二重写しになってきた。

 

【話し合いの体育】

 「健康スポーツⅠ」を見学した。学生たちは思い思いにバレーボールやバスケットボールを楽しんでいる。

よりスポーツを楽しむために学生間で話し合ってルールを変更することが、この授業の目的の一つである。バスケットボールを男女混合で楽しむために男子は遠くからシュートを打つようにしたり、7人以上でバレーボールを楽しむためにローテーションにプレイからはずれるポジションを入れたりと、様々なルール改善を学生は行う。そして、授業の終わりにはルール改善についてのレポートを課す。

体を動かし技術を向上させるだけの体育観は時代遅れと学んだ。

 

 いずれも学生の主体的な思考を引き出すことに工夫を凝らした授業だった。この授業を記録し、学び、発展させる仕組みをつくりたい。

2 小中もすなる研究授業といふものを大学もしてみむとてするなり

 授業を研究する者の端くれとして残念なことであるが、人間は授業を十分に記録し表現する方法をつくれていない。授業から学ぶなら、大勢で授業を参観し議論する研究授業が、もっとも優れているのである。研究授業は明治以来の日本の教員が開発し ”lesson study ”の名で世界に広がった、日本が誇る授業の研究方法である。現在も小、中学校ではしばしば行われている。研究授業を継続的に行うことを、学校教育学類を担当する仲間たちに提案し、実行することになった。

 この2年間に4回の研究授業を行ったが、そのうちの2回を紹介しよう。

 

【理論と実践を往還する】

 「知的障害教育論Ⅱ」は特別支援学校でのフィールドワークを含む授業である。フィールドワークの事前にはプランと教材を作成させ、事中では学生たちが様々なゲーム等を子どもたちに指導する。事後には学生たちの活動と子どもたちの様子を撮影したビデオを視聴させ省察させる。理論と実践を往還する授業である。

省察の授業を参観した。学生たちは、ビデオを見ながら教員が示した枠組みに沿ってメモをつくり、グループの中で発言するなど、積極的に思考している様子が見られた。

授業の翌日、参観者が集まって検討会を開催した。参観した仲間たちからは、「フィールドワークが基軸となった授業であり、学生の積極性を引き出せている。」という評価を得た。一方、「学生は、自分たちがうまくやれたかを視点として省察をしているが、子どもの発達を視点にした発言を聞きたかった。」など、学生の高度な学びを求める発言もあり、授業が更に発展することを期待させる検討会となった。

 

【摸擬授業の魅力と課題を浮き彫りに】

 「保健体育科指導法Ⅳ」は、中学校保健体育の教員免許を得るための必修科目である。当該免許取得の意思が明確な11名が履修している。受講者は、教材研究及び授業研究を単独で行うことを求められる。研究発表の形式は、プレゼンテーションまたは模擬授業の実施のうちから1つを選ぶ。
 研究授業は、(1)40分ほどの学生の模擬授業、(2)20分ほどのグループに分かれた学生間の討論による模擬授業の省察とその共有、(3)20分ほどの授業者(大学教員)からの指導、というプログラムで進んだ。
 授業終了の夕刻、参観者が集まり検討会を開催した。まず授業者から
「教材・教具をしっかりと研究すること、事後にきちんと振り返ること、ができる教員を育成すること」という授業の目的が説明され、さらに「プレゼンテーションを行う学生も、摸擬授業を行う学生も何度も研究室を訪れて相談してくれる。学生にとって大変勉強になっているとは感じているが、彼らにとって要求度が高すぎないか、意見を聴きたい。」という要望が話された。参観していた教科教育の担当者からも「摸擬授業を指導すると頑張りすぎるくらい頑張る学生もいるので、他教科の兼ね合いを考えたときに心配になる。」という意見が出された。  

 模擬授業には学生を学びへと誘う性質があるのだろう。私は、この性質を活かして学生が能く学ぶ教員養成カリキュラムが創ることを目標に、研究を進めたいと考えている。

 一方、授業の目標のひとつである「事後にきちんと振り返ること」については、「討論の中でそれぞれの学生の意見表明とその共有はできているが、批判したりその批判を受け止めたりという活動が見られなかった。」という批判があった。実は多くの教員が共有している課題である。2008年施行の小学校学習指導要領や中学校学習指導要領の総則に児童生徒の言語活動の充実が記されて以来、学校教育の中で話し合い活動に関する指導が重点的に行うようになった。本学の学生も、教員が要求すればすぐに話し合いの体制をとる。けれども、批判的な意見や別の角度から見た意見の表明など、学生に議論の応酬をさせることは私たちにとって難しい課題である。

3 元学生は何を覚えているか・・大学での学修

 授業にこだわる大学の仲間たちと教員養成カリキュラムの改善についての研究を始めて2年になる。

 研究の一環として、教員として10年~20年を過ごした卒業生を訪ねて、当時の大学での学びについて尋ねている。一般的には、講義形式の教養を深める科目や教職の専門科目などは、内容をあまり覚えていない。もっとも記憶に残っているのは、やはり1年を通じて追究した卒業研究である。学生と教員が一体となって教材研究をして大学に招いた中学生に対して理科実験を指導した授業も記憶に明確に残り、次いで教育実習である。いずれも、学生が主体的に考えて発言して仲間や指導者と議論し、協力なければならない環境の中での学修である。学生が能く学修するためのヒントをつかんだと理解している。

4 おわりに

 私が学生として過ごした頃の大学でも、授業にこだわる教員は少なくなかった。講義のために図書館で書籍や学会誌を広げてノートをつくる教授、最先端の研究論文を教科書に指定し初学者相手に熱弁を振るう助教授(現在の准教授)、学生実験に使う機材の充実を目指して資金集めに奔走する助手(現在の助教)グループ、などが思い出される。教育内容を研究の最先端に近づけようと努力していたのである。

 あれから40年間が過ぎ、大学教育の社会的な位置づけも変わった。大学教員に教育内容のみならず教育方法の改善も求められるようになった。前述したように、我が学校教育学類の先生方は様々な方法で学生の主体性を引き出そうと努力している。

 授業に興味を持つ学校教育学類の学生といっしょにこのような追究ができたら、もっと楽しいだろう。考えてみることにする。

(学校教育学類:田幡 憲一)