尚絅学院大学

学校教育学類 お知らせ

【学校教育学類】性の多様性を考える小学校理科・・卒業研究学生との協働

2024/08/02

1 保健室・学生相談室からのお誘い

尚絅学院大学の保健室と学生相談室から、「LGBTQ+について一緒に話しませんか?」という、学生・教職員に向けたご案内をしばしばいただきます。人間の性の在り方が多様であることを社会が認識し始めていますが、大学としてこのような活動を行うことは大切です。

2 小学校理科と性の多様性

(1)教科書と性の多様性

初めて性と生殖について学習をする、5年生の教科書を開いてみましょう。ヘチマやカボチャなど雌花と雄花に分かれた単性花と、アサガオなどのようにひとつの花におしべとめしべがある両性花について掲載されています。アサガオは両性花ですから雌雄同体(株)ですが、ヘチマやカボチャも雄花と雌花はひとつの個体に咲きますので、アサガオと同様雌雄同体です。そして、ヒトやメダカなどのように、個体として雌雄が分かれた動物の生殖と発生について学びは広がります。植物は雌雄同体(株)として動物は雌雄異体として学習させるのです。小学校理科教科書は、編纂者の意図に関わらず、性の多様性について取り扱ってきています。

 

(2)生活の中の性の多様性

小学校理科教科書の枠組みを基に、地域での生活を考えてみましょう。

ギンナンが放つ香りがしばしば人間に敬遠されるため、街路樹として雄株のイチョウを選ぶ場合が多いようです。イチョウは雌株と雄株に分かれた雌雄異体(株)なのです。

宮城県特産のマボヤは雌雄同体です。気仙沼市立松岩小学校教諭の片山は、生殖腺が発達する冬のマボヤを解剖させ、茶色の卵巣の中に白色の精巣が縞のように入り込んでいる様子を児童に観察させる実践を報告しています1)。身近な地域素材を活かした学習です。

(1)と(2)に具体例を多少加えて整理すると、表1のように示すことができます。
 

表1 動植物の雌雄(加藤聖也、田幡憲一 作成)
  動物 植物
雌雄異体(株) ヒト、メダカ イチョウ、キウイ
雌雄同体(株) ミミズ、ホヤ、ミズウオ 単性花…キュウリ、ヘチマ、トウモロコシ
両性花…サクラ、アサガオ

3 性転換する動植物

映画「ファインディングニモ」の主人公ニモはカクレクマノミという魚です。カクレクマノミは雄から雌へと性転換します。映画が大ヒットしたためか、学生さんもこのことを結構知っていました。魚類には性転換する種類が時々見られるのです。

動物に性転換する種類があるなら植物にも性転換する種類がありそうです。両性花の中に、キキョウやヤツデのようにおしべが同じ花のめしべより先に成熟して花粉を放出してしまい、めしべが成熟するころには花粉がなくなってしまう植物があります。雄性先熟と言いますが、雄から雌への性転換と捉えることができます。反対に雌性先熟をする植物もあります。

性の在り方は本当に多様です。

4 性の多様性を学ぶ教師教育教材の作成・・卒業研究

学校教育法34条は「小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書2)又は文部科学大臣が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。」と定めています。そして、小学校理科教科書は性の多様性を学習する枠組みを備えているのです。

小学生に動植物の性の多様性を理科の中で学習させることができたら、人間の多様な性の在り方を受け入れる素地を社会に醸成することができるかも知れません。そのためには小学校の先生方に、性の多様性を取り扱う授業を組み立てる資質を備えていただく必要があります。尚絅学院大学4年生の加藤聖也と私はこのような考えから、小学校教員を目指す学生を対象とした性の多様性について学修する授業と教材を作成し、加藤が尚絅学院大学学校教育学類の2年生を対象に授業実践をしました。受講生からは概ね「わかりやすかった。」と評価されました。この研究をまとめて加藤は卒業研究とする予定です。

私も加藤も、受講生のうち1人でも、近い将来小学生に理科を教えるときに、性の多様性について語ってくれるいいなと思っています。

 

1)片山祥子:海洋生物を用いた教材開発.平成27年度教職大学院リサーチペーパー(平成27年度教職大学院リサーチペーパー等編集委員会 編)、国立大学法人宮城教育大学大学院教育学研究科専門職学位課程(教職大学院)、pp.14-15(2016)
2)教科用図書は教科書に同義。

(学校教育学類:田幡 憲一)