尚絅学院大学

学校教育学類 お知らせ

【学校教育学類】データで見つめる国語(授業紹介)

2024/05/30

本記事をお読みの皆さんには、お気に入りの文学作品がありますか。

あるという方は、恐らくはその作品を書いた作者の他の作品にも好きなものがきっとあると思います。

 

「文は人なり」という言葉があります。人それぞれに性格があるように、同じテーマについて書いたとしても、言葉選びや構成の違いによって、各々が書く文章にはその人なりの個性が表れるという考え方です。

このような立場で文章を見つめ、その人「らしさ」はどのようなところから生まれるのかを分析する言語学の一分野を「文体論」と呼びます。

私はこの文体論の考え方を応用して教科書の教材文を捉えたり、国語科の学習指導に役立てたりしていくことを研究しています。

 

昨年度後期の「国文学演習Ⅱ(近現代)」では、受講生各自が文学作品を一つ選び、テーマを決め、分析して発表する授業を行いました。

まず、作品の全文を「テキストマイニングツール」と呼ばれる解析ツールにかけます(長い作品だとまずこの作業が大変……)。

すると、作品中に使用されている名詞や動詞、形容詞などが一覧となって表示されます。

「走れメロス」の例。題名通り、「走る」が多く使われています。

「走れメロス」の例。題名通り、「走る」が多く使われています。

ここからが重要です。

動詞は動作を表す言葉ですから、動詞の割合が多い作品は場面展開が速く、テンポ感の良い文章となります。推理小説のように、次々と事件が起きて場面が移り変わっていくような作品にはこの傾向がよく表れます。

一方、形容詞が多い作品はどうなるでしょうか。形容詞は人や物の様子を表す言葉ですから、形容詞が多い文章は空間や色彩を補って、彩り豊かな絵画的想像を広げるものになります。情感に訴えかけてくる作品はこの傾向が強まります。

また、上の画像のように、同じ言葉が何回使われているかもツールは解析してくれます。その作品の中で繰り返し使用される言葉は何らかのキーワードかもしれませんし、作者が意図的に(もしくは無意識に)好んで使用している言葉かもしれません。

表示された各数値を基に文章に立ち返り、他の作家には見られない特徴的な語句や表現はどの場面にあったか、特定の語句が集中的に使用されている部分はどこかなどを洗い出すことで、その作品、さらには作者の「個性」はどのようなものか考察していきます。

本来はもっともっと多くの観点を立てて細かく分析するのですが、これくらいでも初めて行う学生は悪戦苦闘。

高校生までの授業とはまるで異なった文学作品との向き合い方に苦しみながらも、一生懸命取り組んでいました。

AIが診断した言葉の使い方についても妥当か検討します。

AIが診断した言葉の使い方についても妥当か検討します。

よく、「国語には正解がない」と口にする方を目にしますが、これは正確ではないと私は考えます。

それは、類義語や、自身の解答を紡ぐ文章構成によって様々な考えが表現されるだけであって、文章の捉え方としてどんな解釈でも許されるわけではないからです。よって、「正解がない」というよりは、「正解として許容される幅がある」といったところが適当でしょうか。

言葉自体を考える科目なのに、言葉に頼らなければならないという矛盾があり、さらには許容幅があるために、文学作品も含めて国語というものは時として捉えどころがありません。

何となく感じ取ることはできるのだけれども、はっきりとは目に見えない文章の雰囲気に対し、データで数学的に迫ってみるというのも面白いのではないでしょうか。

(学校教育学類:大谷 航)