尚絅学院大学

学校教育学類 お知らせ

【学校教育学類】 教育実習にはマスク着用を!・・学生諸君へのお願い(田幡)

2023/07/13

1 光をとりもどした街

プロ野球中継の画面に映るスタジアムの観客席で、マスクをはずして応援歌を合唱している。街角には人が繰り出し、閑古鳥が鳴いていた盛り場にも活気が戻ってきたようである。教室にもマスクを着用しない学生が目立つようになってきた。


2 感染症法上での新型コロナウイルス感染症の位置づけが変わった

2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)における位置づけが、2類相当の新型インフルエンザ等感染症から、季節性インフルエンザなどと同じ5類へと変わった。より危険性が少ないとされる感染症へと取り扱いが変わったのである。このため、リアルタイムで行政が患者を把握することはなくなり、感染症法を根拠とする公費負担による検査もなくなった。コロナに罹患した場合の患者の生活に対する法的な制約も、医療機関や保健所の任務も減少したのである。私たち市民が一種の解放感を感じるのも当然である。

新型コロナウイルスは変異を繰り返し、現在ではオミクロン株が主流となっている。オミクロン株は、それまでの株と比べ、感染の能力は高いが感染しても重症化するリスクは低いとされている。厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部戦略班の南孝徳総括調整官は、「新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株が主流になってからは、発生初期と比較して重症度が低下しています。これまでも、その特徴に応じて柔軟に対策の見直しを行ってきていましたが、陽性の方への自宅待機や入院の勧告といった強力な措置を行うほど国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがある状態とは考えられないと判断し、『5類』に変更することとしました。」と述べている(1)。



3 やはり危険な新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症は、もはや恐るるに足りないのだろうか?主として厚生労働省のウェブサイト(2)に掲載された、国内の新型コロナウイルス感染症に関する資料を解析して考えてみよう。特に記さない限り、数値は参考文献(2)によるものである。

2020年1月15日に最初の新型コロナウイルス感染症患者が日本国内で発見され(3)て以来、2023年5月9日までに集計された死者数は74694人である。けれども、2022年8月22日時点で集計された死者数は37269人であり、過半の37425人は2022年8月23日から2023年5月9日までに集計されている。つまり過半は感染症法上の取り扱いが変わる5月8日までの9か月足らずのうちに亡くなっている。国立感染症研究所は、「令和4年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株のBA.1系統に置き換わり・・後略」(4)としている。即ち、9か月間足らずの間に2023年5月9日までに集計された累積死者数の過半を数えた原因は、重症化のリスクが低いと言われるオミクロン株なのである。

オミクロン株によって、罹患した個人が重症化するリスクは低下したのかも知れないが、その感染の能力を考えたとき社会全体へのリスクは増大したと言えよう。

新型コロナウイルス感染症は重症化しなくとも、強い喉の痛みや味覚の変調などが起こるほか、疲労・倦怠感などが後遺症として残ることもある。子どもや若者にとっても軽視してよい感染症ではない。

高齢者のリスクは若者や子どもの比ではない。年代別新規陽性者数(2022年9月21日~2023年4月26日)から計算した70歳以上の高齢者が新規陽性者に占める割合は11%である。ところが、2023年4月25日までの、性別・年代別の新型コロナウイルス感染症による日本の死者数から計算すると、この時期までの死者数の89%を70歳以上の高齢者が占める。高齢者にとって、新型コロナウイルス感染症にひとたび感染すると生命の危機に陥る可能性が、若者や子どものそれよりもずっと高いことがわかる。



4 第9波は目の前かも知れない

本学では教育実習に関して、行く学生に実習中にマスクを使うことや、事前に健康チェックを行うことを求めている。学校で学生が出会うこどもの中にも重症化のリスクがある場合もあるし、こどもの家族に高齢者がいることもある。実習先での感染を防ごうとする本学の方針に、学生諸君のご理解をお願いしたい。

仙台市内の下水中の新型コロナウイルスの濃度を測定し続けている東北大学工学研究科佐野大輔教授のグループは、過去に測定したウイルスの濃度と比較して2023年7月3日‐9日の仙台市内の新規感染者数を予想し、「昨年11月中旬頃(第8波の入口)レベルで横ばいの状況」としている(5)。第9波は目の前なのかも知れない。
 


引用、参考文献
(1)南孝徳:新型コロナウイルス最前 第30回新型コロナウイルス感染症の5類移行後の対応.「厚生労働」2023年5月号、日本医療企画(編集協力 厚生労働省)、厚生労働省ウェブサイト、
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202305_00001.html、2023年7月3日閲覧
(2)厚生労働省:データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-.厚生労働省ウェブサイト、
https://covid19.mhlw.go.jp/、2023年7月3日閲覧 (2023年5月8日以降はデータの取り扱いが変わってしまったので、それ以前に収集され整理された2023年5月9日までのデータが記されている。)
(3)杉下由行、渡邊愛可、関なおみ、矢沢知子、矢内真理子、芹沢悠介、今村郷朗、押谷仁、松井珠乃:IASR 東京都での新型コロナウイルス感染症(Covid19)の流行(2020年1~5月).IASR、41、pp.146-147(2020)、国立感染症研究所ウェブサイト、https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/9818-486d01.html、2023年7月3日閲覧
(4)国立感染症研究所:感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第17報).2022年、国立感染症ウェブサイト、https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11180-covid19-17.html、2023年7月3日閲覧
(5)COVID-19流行予測.
https://novinsewage.com/%e4%b8%8b%e6%b0%b4%e3%81%8b%e3%82%89%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%8a%e3%81%ae%e6%b5%81%e8%a1%8c%e3%82%92%e4%ba%88%e6%b8%ac/、 2023年7月7日閲覧

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